地元紙の黒田物語は読みましたか? 【終幕と原点】① 長かった野球人生の終幕が訪れた。広島東洋カープの投手黒田博樹は自身初めての日本シリーズのマウンドに立っていた。力投しつつ両脚に異 変が起きた。続投を期したものの果たせず、これが最後のマウンドになった。 日本シリーズ第3戦、この試合の先発に懸けていた。不安があった右足首に可動域を広げる注射を打ち、肩は万全に仕上げた。米国から妻と3人の娘が2泊3日の強行日程で帰国、スタンドで観戦していた。 4安打1失点で迎えた6回。体が悲鳴をあげた。先頭の近藤への投球で右ふくらはぎがつる。次打者の大谷をフォークで左飛に仕留めると、今度は左のふくらはぎがつった。 アクシデントは不慣れな地での不運が重なった。札幌ドームでの登板は11年ぶり。前日調整で走った人工芝と投球練習したマウンドは予想以上に硬く、両脚へのダメージが大きかった。トレーナー陣も反省する。「札幌は寒くて水分を取る概念がチーム全体でなかった」 治療のため戻ったベンチ裏で黒田はつり止め薬を服用した。それでも両脚のテーピング中に両太ももがつり始めた。「今までもつったことはあるけど、投げられた」。闘争心が衰えない姿に交代を勧める声はなかった。 再びマウンドに立った。心配げなナインの前で投球練習を開始。左脚を上げた瞬間、軸足の右脚はがくがくと震えた。苦悶の表情で1球。2球目を投げた直後、畝コーチに聞いた。「次の投手は大丈夫ですか」「ヘーゲンスができている」。小さくうなずいた。 3球目を投げた後、強い自制心が働いた。次打者は4番中田。「今までだったら、このままいかせてくれというのがエースだと思っていた。でも日本シリーズの2–1の場面で、我を通して投げさせてというのはやったらあかん」。最優先すべきはチームの勝利。自ら降板を申し出た。 交代後、松原チームトレーナーは黒田の一言に衝撃を受ける。水分を補給し、両脚の筋肉が固まらない処置をしている最中だった。「次(第7戦)があるかもしれんから(右肩用の)アイシングを持っきて」。感傷に浸ることもなければ、いかなる時も望みを捨てない。最後まで諦めない黒田の真骨頂だった。