元阪神の中井悦雄投手を知ってますか? 1963年 中井は広いスタンドを見わたしてから胸をそらしてマウンドをおりた。やや気どったようなポーズ。「阪神のユニホームを着たばかりのころ、村山先輩に教えてもらったんです。グラウンドに出たら常に胸を張っていなくちゃいかん。大選手になる秘けつはたえず自信を持って胸をそらせることだって。ぼくはこの試合に負けても堂々と胸を張ってマウンドをおりるつもりでした」公式戦二試合目(十八日の大洋二十七回戦)で勝ち星をあげ、三度目の登板で完封勝利。両リーグ研修あけ投手の中で中井だけがすばらしいピッチングをみせている。「公式戦に出たって一つくらいは勝てると思っていました。それでなければプロにはいりませんよ。やれると思ったから阪神にはいった。みんなそうじゃないですか?でもぼくは自分の力をまだ六〇くらいしか出していない。きょうだってカーブがきまらなかったらシュート・オンリーでした。だから2勝したといってほめられてもちょっとピンとこないんです」ピッチングも大胆、しゃべることも不敵。河西スカウトはこのスケールの大きさに目をつけて、強引に関大を一年で中退させたのだという。「きょうは一回を三人でかたづけたとき、三回まではだいじょうぶだと考え、三回が終わったときは六回までいけると思いました。それ以後はもう一点もとられない自信で投げた。大洋?近藤(和)さんを警戒したんだけど、なんだか肩すかしをくった感じだった・・・」中井はとてもルーキーとは思えない口調でしゃべった。中井のからだをよく知っている稲村トレーナーは中井のこれからをこう占う。「はじめて中井のからだにふれたとき、これはいけると思った。優秀な筋肉質で、村山とそっくりのからだなんだね。一日休めば調子が悪く、逆に投げれば投げるほどエンジンがかかっていくタイプだ。来年は村山、中井の二人の投手で阪神はまた強くなるんじゃないかな。まじめな性格だし、人一倍負けずぎらいだし、大投手になる要素はすべて持っているといっていい」三十五年夏の甲子園に大鉄高の投手として出場、近鉄・土井とは同級生。そして、お互いにものすごいライバル意識をもやしている。ウエスタン・リーグでは13勝1敗でハーラー・ダービーのトップだ。