> 日本は漁業と環境保全に関しては発展途上国もええ所や というのは、基本的に質問者さんのおっしゃる通りです。
漁業に関しても環境保全に関しても、1980年代から1990年代の前半くらいまでは、日本は世界をリードしていました。
ところがそこで慢心したのか?日本国内ではその後の進歩がほとんど行われなくて、この20年ほどの間に、漁業でも環境保全でも、すっかり世界の潮流から取り残されてしまいました。
しかしそうした実情に不勉強なマスコミや一般大衆の間では、いまだに日本は漁業先進国であり、環境先進国であるという幻想がはびこっており、そのために、今では旧態歴然たる「昔の仕組み・枠組み」がそのまま、残されています。
漁業規制などはその最たるものなのですが、ところがそうした実情が明らかになると、監督官庁である水産庁の怠慢がはっきりしてしまいますから、行政は決して認めようとはしませんし、大手マスコミなどにも、行政の発信する“大本営発表”を覆すだけの取材力がありません。
かくて、世界中の先進国で漁業が成長産業として注目を集める中、日本の漁業だけが、先進国の中での衰退産業となってしまっているわけです。
他の回答者の方が > 漁業権が確立されているので日本はまし と書かれていますが、申し訳ないのですが、これは完全な不勉強ですね。
そもそも「漁業権」というのは江戸時代の「磯は地付、沖は入会」という“しきたり”を明治時代に法制化しただけのもので、沖合漁業や遠洋漁業には適用されません。
なので基本的に沖合漁業の対象となるサバ、イワシ、マグロ等には関係ない話ですし(ただし定置網漁業には漁業権が設定されている)、シラスウナギの特別採捕の権利も、漁業権とは別の設定です。
(成魚の“天然ウナギ”の漁業には、内水面漁業権が設定されていますが。
) そもそもウナギにしてもマグロにしても、海外での消費も増加しているとはいえ、いまだにその消費の大半は日本国内で行われています。
「中国や韓国の船が乱獲している」と言いますが、その乱獲された魚を買って食べているのは日本の我々であり、そもそも中国や韓国が乱獲を始める前に、より大規模な乱獲を行ってきたのが日本の漁船です。
これは水産資源学者の勝川俊雄先生が、ご自身のWEBサイトで繰り返し主張されていますので、疑問があれば過去のエントリーにさかのぼってじっくりとお読みください(↓)。
http://katukawa.com/ 漁業資源管理についていえば、先進国ではほとんどが、漁船一つ一つに年間の漁獲量を割り当てる「個別割当制度(IQもしくはITQ)」を採用しています。
ポイントは年間の漁獲「量(=重さ)」を制限していることで、そのために、各漁船(漁業者)は、できるだけ重量単価の高い「良い魚」だけを採ろうとします。
そのため、沢山取れても単価の低い小さな魚などは目の前にいても取らない。
サバでもイワシでも、たっぷり脂ののった、高級な大型のものだけを選んで(現在の魚群探知機ではそれが可能です)、しかも値段の一番高い時期に、一番高い港に、陸揚げしようとします。
ですので、例えば日本にサバを輸出しているノルウェーなどでは、大学院で経済学を専攻してMBAの資格を持った漁師が、コンピュータでサバの単価予測をしながら漁をしているほどです。
いつどこでどんな大きさのサバをどれくらい捕って、どの港に水揚げすれば一番単価が上がるか、コンピュータシミュレーションを繰り返して、計画的に漁業を行っている。
そしてとれた魚は自国では消費しません。
(ノルウェー人はサバは好きではない。
)ほとんどが日本への輸出です。
一方日本では、一応、日本国内での年間捕獲量の上限(TAC)は決められていますが、それを誰が、いつとっても良い「早いもの勝ち」のルールになっています(オリンピック方式)。
ですので漁師は、目の前に魚の群れがいればその時の単価などは考えない。
とりあえず「捕れるだけ捕る」。
その結果、水産流通の処理能力を上回る大量の水揚げが一度にされて、せっかくの魚が肥料や魚粉などに加工されてしまったり(イワシに限らず、サバなどでも良くあります)、あるいは、大きな魚は取りつくしてしまって、とれる魚はサバでいえば「ジャミサバ」とか「ローソクサバ」と呼ばれるような、普通の食用にはできなくてやはり肥料や魚粉の原材料にしかならない魚ばかり、ということになります。
(また日本のTACは科学的な資源量とは関わりなく政治的に決まるので、実際には過剰なTACが設定されてその上限に達することがない=実質上、ほとんど漁獲規制が行われたことがないという問題もありますが、それはまた別の話として…。
) こうした状況を打開するには、漁業資源管理については、やはり日本もITQを導入することが一番です。
しかしこのITQを導入するには、各漁船に専用の記録装置や発信機などを搭載して不正が行われないように管理することが必要になりますから、その費用負担の問題も含めて、漁協などの反対が根強い。
自分たちの失策を隠したい水産庁もITQの導入には消極的ですから、現在の漁業関係者に任せておくだけでは、事態は好転しません。
日本の漁業の後進性を明らかにして、消費者&一般生活者の側から、漁業関係者に働きかけていくしかなさそうです。
また一方、ウナギに関していえば、実は国内に流通しているウナギの半数以上は、密猟や密輸等を経た「闇ウナギ」であることが、すでに研究者によって明らかにされています(↓)。
https://c-faculty.chuo-u.ac.jp/blog/kaifu/2015/10/20/%E5%AF%86%E6%BC%81%E3%82%A6%E3%83%8A%E3%82%AE%E3%81%AB%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%86%E7%A2%BA%E7%8E%87%E3%81%AF50%EF%BC%85%EF%BC%9F/ これらの「闇ウナギ」は、当然、国内外の反社会勢力(暴力団やマフィアなど)の資金源の一つとなっているわけで、大きな社会問題の一つですが、これもまた、国内の養鰻業者などはそうした「闇ウナギ」に依存してようやく経営が成り立っているのが実態ですから、「闇ウナギ」を排除すれば、それによって潰れる業者が続出しますし、また現在のように、CVSや牛丼チェーンなどで安価なウナギを食べることもできなくなります。
私はウナギというのは本来、蒲焼専門店で、単価5,000円くらいは出して食べるべき貴重な食材だと考えていますから、質問者さんと同じく、鰻蒲焼の小売りを許可制にして、CVSやスーパー、牛丼チェーンなどでは販売できないようにすることを以前から主張していますが、養鰻業関係者だけでなく、CVS&スーパー、牛丼チェーンなどの小売業者や、あるいは、密輸ウナギなどの取り扱いを行っている大手商社なども大反対です。
これもまた、業界関係者に任せておくだけでは、彼らの不利になる規制等が行われることはありませんので、私たち消費者&一般生活者が、「ウナギを守れ!」「闇ウナギなど食べたくない!」と、声を上げ続けることが必要でしょうね。
これら、日本漁業の問題点については、日本のマスメディアの中では、雑誌『WEDGE』が、ウナギについてもマグロについても、あるいはサバなどについても、精力的に取り上げて記事にしています。
その一部はWEB版である「WEDGEInfinity」にも掲載されていますので、ご興味があればサイトにアクセスの上、キーワードを検索するなどしてお読み下さい。
http://wedge.ismedia.jp/category/gyogyou 上記の他にもウナギの問題、マグロの問題など、精力的に発信しています。
またその他でこの問題に関して積極的に情報発信している専門家や有識者としては、上でご紹介した「勝川敏雄さん(東京海洋大学准教授)」の他、 ・井田徹治さん(共同通信社編集委員) ・片野歩さん(水産会社海外担当) ・小松正之さん(政策研究大学院大学教授) ・松田裕之さん(横浜国立大学教授) ・生田與克さん(築地魚河岸マグロ仲卸業) ・塚本勝己さん(日本大学教授) ・海部健三さん(中央大学准教授) などがいらっしゃいます。
それぞれ大変勉強になる著書を上梓していらっしゃいますし、またWEB上でも積極的に発言をしていらっしゃいますので、検索などをしていただくと良いと思います。
「日本のやっていることは正しい。
日本は漁業でも環境保全でも先進国だ。
悪いのは中国や韓国だ。
」と言っていれば、気持ちは良いかもしれませんが、世界に出れば笑い者です。
気候変動条約や生物多様性条約などの国際会議でも、今やアジアの中で世界の注目を集めるのは中国や韓国の代表の発言であり、日本代表の発表を取材するのは日本のメディアだけというのが実情です。
これを取り返すためには、私たち消費者&一般生活者がいち早く声を上げて、既得権益の上に胡坐をかいている業界関係者を突き上げるしかありません。
また魚道整備や、いわゆる「多自然型川づくり」等に関しても、日本の場合には、いわば「アリバイ作り」的に行われている場合が多く、ほとんどの場合は効果検証やその検証結果に基づく改善(=「アダプティブマネジメント」と言いますが)等は行われていません。
結果、実際には「魚道作りという名の土木工事」を受注した土建会社が儲かるだけで、魚の遡上には何のメリットがないケースがあちこちに出現しています。
そういう部分も含めて、まだまだ反省すべき部分は多くあります。
長々と書きましたが、自然環境の保全や漁業資源の問題に関して、きちんと勉強さえすれば、質問者さんのようにお考えになるのは当然です。
もちろん、細かなケースの一つ一つについては、異論や反論を抱く方もいらっしゃるでしょうけれども、基本的な方向性として間違っていません。
そのことには自信をお持ち下さい。
質問者さんの他にも多くの方が日本の漁業や環境保全の問題点に気づいて、将来に向けて少しでも、良い方向に変わっていくことを願っています。