匿名さん
元巨人の堀内庄投手を知ってますか? 1962年 九回の別所コーチのかっこうといったらなかった。
立ったりすわったり堀内の一球一球にモジモジ。
ゲームが終わるか終らないうちにイスをけとばすようにマウンド目がけて走り出した。
「やった、やった」そのスピードは、遊ゴロで一塁へ走る最後の打者長田より速いくらいだった。
別所コーチが気遣いのようになったのはワケがある。
堀内にここ三年間、完投勝利の記録がなかったからだ。
「なんとか堀内に完投の味を思い出させてやりたい」といっていたものだ。
堀内の方はやたらにテレくさそう。
「久しぶりで恥ずかしいや。
笑ってくれといったって笑えないよ」ロッカーへ帰ると床へベタリとすわり込む。
「うれしくないといえばウソになるね。
なにしろ三年間、北海道で広島とやったとき以来だもの。
やはり投手は完投しなくっちゃね。
それでもことしはやはり大洋戦で九回と三分の一まで投げたことがある。
だから必ず近いうちに完投してやろうと思っていた。
しかし正直いったら完投したより、うちの4連敗を救ったことの方がうれしい」フロから出ると堀内は堀本に頭を下げた。
これも理由がある。
堀本はこの夜の堀内にとってピッチング・コーチのようなかっこうだった。
堀内のピッチングに腰がはいらないので、それを一回ごとに注意したのがきいたらしい。
この堀本の陰の力になったのは藤田。
四回まで堀内がパーフェクトにおさえていたので、ベンチやブルペンで早くも「完全試合だ」といい出すものがいた。
それを藤田は「そんなことをいうとダメになるから」とナインにかん口令をしいて気を使ったそうだ。
フロからあがって着がえを終わった堀内は、勝利投手賞の金千円なりを大事そうにそっともちあげた。
「ありがたいことです。
さあこのお金は女房にやろう。
いつもお世話になっているからね」最後は愛妻物語りになった。