ダイムラーのHCCIエンジン技術ですが,最大の課題は,コストパフォーマンスです。
すでにご存知かもしれませんが,HCCIエンジンについて簡単に説明し,最近のHCCIエンジンの状況を解説し,最後にダイムラーの技術開発について説明いたします。
●HCCI (Homogeneous Charge Compression Ignition : 均質混合圧縮着火) エンジンとは? 狙いは下記2つです。
(1) リーン燃焼による燃費改善 (2) 低温燃焼によるNOx排出量低減 ★リーン燃焼 リーン燃焼を使うと,低負荷領域では,スロットルバルブをあまり閉じる必要がないため,その分,ポンピングロスを低減できます。
また平均的な燃焼温度が低くなり,燃焼壁から冷却水に逃げる冷却損失も小さくなります。
この2つから燃費を改善できます。
15年くらい前のリーンバーン(燃焼)エンジンは,燃焼室内の混合気の濃淡があり,濃いところでは高温になるため,NOxが発生しました。
これを改善するために均質な混合気で燃焼できるようにしたのがHCCIです ★低温燃焼 NOxは約2000K(ケルビン)を超えると,発生します。
しかし均質な混合気をつくり,それを自発火させることで燃焼温度を下げることができます。
これによりNOx発生を低減できます。
●どうやってHCCIエンジンをつくるのか? 下記技術の組み合わせです ・高EGR … 別気筒の排気を他気筒に供給(ブローダウン) ・ターボ・チャージャ … 吸気温を加温 ・可変動弁 … HCCI領域ではオーバラップ量増大 ・直噴 (・可変圧縮比) これらの技術の組み合わせにより,燃費は15%くらい向上します。
●HCCIの現状とは? 自動車メーカの多くがHCCIエンジンを開発しています。
しかしいずれも市販化できていません。
その最大の理由は,燃費効果と触媒量低減とによる効果がコストアップに見合わないからです。
燃費改善だけを考えるのであれば,過給器を使うダウンサイジングの方が費用対効果が良くなります。
もうひとつ大きな要因は,部分負荷領域ではNOxがほとんど出ないのですが,トルク負荷やエンジン回転数が定格の半分以上になると,通常の燃焼に戻す必要があります。
なぜなら,出力が非常に小さい(正確には,トルクが小さい)からです。
このためNOxが排出される運転領域があることになり,三元触媒が必要です。
つまりHCCIの狙いである燃費改善と触媒担持量低減の両方が十分,達成できないのです。
●ダイムラー社の現状は? ダイムラー社は下記のような問題を抱えていました。
・1997年 Aクラス横転事故 → ESC普及の原因になった ・1998年 クライスラー社との合併 → 大きな負債を抱え,開発費不足に ・2004年 セントロニックブレーキシステム(SBC)の不具合によるリコール このような状況からダイムラー社のイメージはがた落ちになりました。
これを回復させるために,HCCI技術が間近なものとして発表したのが,HCCIエンジン(DiesOtto)を搭載したコンセプトカーF700車です。
●最後に 点火プラグを使う燃焼方式(SI燃焼=Spark Inginition)を含めないHCCIエンジンは,自動車用に難しいでしょう。
もし使わないと,最大出力が1/4くらいになるためです。
またいろいろな制御,特にSI燃焼との切り換えが必要です。
この切り換え時に大きなトルク段差があり,これを解消するのが,とても難しいのです。
もしモータを使うと,この段差を解消できます。
しかしまたコストがアップします。
このためHCCIエンジンが出る可能性はありますが,メジャーにはならないでしょう。
他の手段でも,この程度の燃費改善はできるからです。
なおディーゼルエンジンについては触れませんでしたが,最近のディーゼルエンジンは,単純な拡散燃焼ではなく,燃焼初期に予混合があり,均質化に近くしてから燃焼に入りますので,かなりHCCIに近いと言えます。
このような燃焼方式をPCCI=Premixed Charge Compression Ignitionと言います。
簡単ですが,ご参考になれば幸いです。