録画の視聴が遅くなってしまいました。
まず最初に申し上げたいのは、両選手とも本当に良く戦ったということです。
評価は様々あるでしょうが、私にとっては期待を上回る内容と結果だった。
まず第一に、クリンチの少ないこと。
両選手ともあれだけ手数を出し合い、危険な距離に留まってパンチを交換し合いながら、クリンチ&ホールドにほとんど頼らない。
第二に、意図的な反則がないこと。
両選手ともクリーンに打ち合った。
クロスレンジでの攻防が多かったにもかかわらず、頭が頻繁に衝突することもなく、確信犯のローブローや体当たりもなく、「ぶつかっても構わない」と頭を持って行くこともない。
心身のスタミナを必要とされるタフな展開を自ら選択し、持てる技量と体力、経験のすべてを尽くして両雄は戦った。
その潔さと勇気に、まずは拍手を。
スコアの発表に際して、レフェリーのサム・ビルエトが「グッドファイト!」と声をかけ、2人にノーサイドを促すと、ごく自然に両雄が抱き合って健闘を讃え合い、同時に場内から、これもまたごく自然に温かい拍手と歓声が沸き上がった。
好試合は、観客の心にダイレクトに響く。
採点の発表もスムーズで良かった。
「(採点の結果により)新しいチャンピオンが決定しています」との始まりは、日本国内で行われた決定戦では、ひょっとしたら初めてかもしれませんが(すでにあったらごめんなさい)、スコアも日本語と英語両方で公表するなど、良い工夫がなされていました。
私のスコアは、以下の通りです。
116-113で田中。
1R 10-9 T 2R 10-9 T 3R 10-9 T 4R 9-10 Y 5R 10-9 T(10-10) 6R 9-10 Y 7R 10-9 T(10-10) 8R 9-10 Y(10-10) 9R 10-9 T 10R 9-10 Y 11R 10-10 12R 10-9 T 田中があれほど接近戦にこだわったのは、正直意外でした。
脚を使ってジャブを突き、ストレート系中心の組み立てで距離をキープ。
インファイトは迷わずクリンチで潰す。
現代流アウトポイントのトレンドに最もフィットした戦い方が、間違いなく田中にはできる。
メイウェザーやリゴンドウほど極端にやらずとも、スピードの差を最大限に活かし、無理をせずにリスクヘッジするスタイルでやれば、中~大差の判定勝ちは想定の範囲内。
しかし田中はそうはせず、クロスレンジに留まり危険な打ち合いを選択した。
イエドラスの土俵に自ら上がり、そこで堂々と渡り合って見せた。
体格差のアドバンテージに救われたことも事実ですが、懸命の打ち合いの最中にあっても、打ち終わりの処理(ムーブヘッド、サイドへ動く、脚で外す)をサボらない。
かなり危ない貰い方もしていましたが、決定的な被弾を許さずに済んだのは、ディフェンスへの意識と基礎体力がしっかりしていたからです。
田中自身の優れたボクシング・センスと頭の良さもありますが、この試合に備えた入念な準備の賜と称するべきで、キャンプの過酷さがしのばれる。
秀逸な距離感もさることながら、攻防の切り替え(パンチをまとめて一息入れるタイミング)を見極め、危険な状況から退避するのと同時に、迎撃から追撃への態勢を取り直す一連の動きと判断の的確さは、20~30戦を消化したベテランも適わない。
イエドラスは最上級のトップクラスではなかったけれど、チャンピオンシップを争うに相応しいパンチと技術、強いハートの持ち主だった。
脚を止めた(止まった?)中盤戦はヒヤヒヤのし通しでしたが、打たれたら必ず打ち返し、気持ちと体力で押し負けない。
もっと(狡)賢い戦い方もできたはず。
しかし今回については、そうしなかった決断を、あえて評価したい。
クリンチ&ホールドが少ないと、試合はグンと引き締まる。
クロスレンジでのクリーンファイト、勇敢なパンチの交換は、観客の心を動かし共感を呼ぶ。
田中のサイズを考えると、遅かれ早かれ階級を上げることになるのでしょうし、2階級制覇も井上の最速記録更新を狙うのは間違いない。
井岡一翔と同様、”TBS的なる路線まっしぐら”にならないことを願うのみです。
文字通り一進一退となった中盤戦。
打ち合いで競り負けなかったのは、体格差のおかげも大きかった。
もしも階級がL・フライで、相手がフィリピンとメキシコの真のトップなら、どうなっていたことか。
・・・・等々、課題は盛りだくさん・・・だけれども。
現役高校生としてプロデビューし、大学に進んだばかり。
4戦しか消化していない二十歳になるかならないかのボクサーが、これだけのファイトを繰り広げた。
素直に称賛されていいのでは。