匿名さん
元広島の大石弥太郎投手を知ってますか? 1971年 王と長島の二人が、計八度打席についた。
この八打席で、生まれた安打は九回のどたん場に長島の放った本塁打一本である。
広島・大石は、巨人の得点源である。
ONを、その右腕で押えた。
いうまでもなく、広島第一の勝因である。
巨人を倒す一例として、よくON分断作戦ということがいわれる。
強烈な破壊力を持つ王と長島を同じ回に打席へ迎えなければ、たとえどちらかに打たれても、失点は少なくてすむという算段なのだ。
しかし大石は、四度もタバになってかかる彼らと対した。
が、怪腕は、冒険を冒険と感じさせなかった。
一回、走者一塁で、大石は王と対決する。
内角ボール。
次は外角シュートでストライク。
三球目は内角速球。
つまった王は一ゴロ。
そして長島。
ストライクをとったあと、二球目は内角へのシュート。
のけぞるような形で打って、大石への凡ゴロ。
「緊張のためか、調子がよくなかった」という大石だが、二打席目は一ゴロと左飛。
三打席目は三ゴロ、三ゴロと巨砲に火を吹かせなかった。
低目に決るカーブ、シュートは、スピードこそなかったが、生きていた。
なぜだろうー精神面、体調にさからわない冷静さがあったからである。
巨人の先発渡辺は打ちのめされて五回で退いた。
「調子が悪いから、押えなければとあせり、知らぬ間に力んでいた。
これが打たれる原因だった」と、渡辺は敗戦の弁を語る。
勝利投手の言葉は違う。
「強気で押すとみせかけ、変化球でかわした。
それに、からだの筋肉が硬直気味だったので、無理をせず、常にていねいに投げることだけを心がけていた」という。
「ていねいに投げていたし、いい出来だった。
仕方がない」(王)「スピードはなかったが、ともかくていねいに投げていたね。
こっちが気負ったのが失敗」(長島)ONともカブトをぬいだ形だが王は、何とか打とうとして六回の打席に着くとき、鏡の前で素振りをするほどだった。
それでも、外角のシュートに腰を引かされ、三ゴロ。
長島も九回以外は完全にフォームをくずされていた。
いささかあがり気味だったという大石だが無理をしないで、内面を整えたのが成功したわけだ。
ONに勝ったわけではなく、大石は自分に勝ったのである。