元近鉄の久保征弘投手を知ってますか? 1963年 別当監督は久保のスタートに三連戦のすべてをかけた。「もし久保が打たれたら・・・と迷いに迷ったが、大事な第一戦をとるためにはもっとも調子のいい投手を使うのが当たり前だと思い切って出した」久保が先発を聞いたのはグラウンドにきてからだ。「チームメートたちは驚いていたよ。だってずっとリリーフばかりだったからな。でも自分ではきょうはくるなと思っていた。東映戦だもの」東映にこれで4勝。二度の完投はいずれも東映からだ。「不思議に打たれない。去年だってほんとうに降参したのは吉田(勝)=対久保の打率五割=だけだ。張本には一シーズン通じてたった二本(対久保の打率一分七厘)しか打たれなかったし、岩下、青野、種茂なんかはこわくないし、ただ1点差だったから一発のある張本には一番気を使ったな」いくら日に当たってもかわらない白い顔から汗がしたたり落ちる。アンダーシャツを通り越してユニホームの方がシャワーを浴びたようにぬれている。前半は若い児玉との息がちょっと合わず苦しかったそうだ。「吉沢さんと比べると経験も違うから児玉がかわいそうだ。だからなるたけ自分の方でリードしたんだ。だが六回から児玉のサインとぼくの投げようとする球の呼吸がピッタリ合ったな」六回から九回まで一人の打者も出さないピッチング。「ことしの目標?去年のように最多勝利(28勝)なんて欲の深いことはいわないよ。第一徳久や山本(重)なんかがバリバリがんばっているから、そんあんい投げさせてもらえないだろうからな。まあ20勝を目ざして投げる。そのかわり負けを減らしてみせる。去年は21敗もしているんだ。負け数を減らせばそれだけにチームにとってプラスになるんだから。それと防御率2点台」と早口。別当監督がうしろから声をかけた。「よく1点を守り切った。肩を冷やさないように早く着がえるんだぞ」ロッカーにはホームランを打った島田が待っていた。二人はオミキドッキリといわれるほど仲がいい。「ボク(久保のこと)めしをくいにいこうな」つれだって球場を出るヒーローに出口でファンがドッと拍手を送った。