匿名さん
元東映の山本八郎選手を知ってますか? 1961年 試合前の山本(八)はふきげんだった。
「チクショウ、肩が痛くなければきのうだってもっと打てたはずなのに、ワキの下の筋肉がつってフォロー・スルーが全然きかないんだ」そのためか、この夜は守っては二回のダブル・エラー、五回には野選と失敗つづき。
「なんとかあの失策をとりかえそうと思っていたが、あんなに豪快な逆転ホーマーが出るとは思わなかった。
上段だったかな。
ボールの2㍍ほど内側をとんでいったな」八回から守備を緋本にゆずってベンチ裏に出てきた山本(八)の顔はまだ青い。
それでも息ひとつはずませず、ペラペラとしゃべりつづける。
「ホームランしたのは内角高目。
カーブのような、ナックルににたシュートのような球だった」球質を聞かれるとわけのわからない説明をした。
「まっさおな顔してたぞ」「ホームにはいったときはヨロヨロしてたじゃないか」とりかこんだ報道陣がひやかすと「そうでしたか。
夢中で気がつかないんですよ。
大阪球場でのホームランははじめてですからね」とテレくさそうにニヤニヤ。
ファン差し入れのコーラを一気に飲んで「ウチの連中は気のいいのがそろっているからな。
きのうの連敗のショックできょうもバッサリやられるのではないかと思っていた」バッサリなどというあたりが大好きな時代劇映画の影響か。
そして「きのうウチが負けた理由知ってますか?球場にくるバスが故障して出発が遅れてしまったんですよ。
ジンクスっていうのかな。
出足でつまづくとウチは悪いんです。
その点きょうは調子よくバスが動きましたからね。
ホームランが出たのも運ちゃんの腕がよかったためかもしれません」からになったコーラのビンをひねくりまわしながら、そんな冗談をどばした。