匿名さん
元南海の林俊彦投手を知ってますか? 1965年 カド番の南海を救ったのは、林のキズだらけの左腕であった。
九回巨人の猛攻撃にあいながらも、終始冷静さを失わず、真っ正面から立ち向かっていったプレートさばきは、二十一歳の若者とは思えないほどの堂々たる落ちつきぶり。
しかも、ナインの握手攻めに「ありがとうございました」と、ていねいに頭を下げる林を、鶴岡監督はどんな気持ちで見ていただろうか。
林はシリーズ前ヒジを痛め、左手ひとさし指と中指のツメも破れかかっており、林自身ずいぶん気を使っていた。
監督からカン口令をしかれたこともあったが、報道陣の質問攻めにはガンとして自分の調子を話さなかった。
だがその林の苦しみも、完投勝利という夢にまでみた成果でむくわれた。
「五回ごろからヒジが痛みだしたので苦しかったが、いい時に併殺に助けられたからツイていたんです。
九回は早く勝とうという気持ちが出て打ちこまれましたが、すべて野村さんのおかげです」と試合前とはがらりとちがい、気持ちよさそうに話した。
林は先発を三日の夜にいい渡された。
「その時は緊張しましたが、もし負ければおしまいだという気持ちはなかった」そうだ。
そして、自分の全力を出し切ることに心をくだいたという。
野村は「林はみかけによらずシンのしっかりしたヤツだ。
五、六回ちょっとへばり気味だったが、よく投げ切った。
ボクは間をとることに気をくばっただけで、なんといっても林の功績だ」と手ばなしでほめたあと「親分がなぜもっと早く林を使わなかったのか不思議なくらいだ」とつぶやいた。
長島の紅潮した顔は、試合後もまだ消えない。
首から上がまっ赤に燃えているようだったが、その口から「いかん、完敗や」ということばが何度もとび出した。
この日2安打した長島だが、七回の三ゴロ併殺がくやすくてしかたがないといった話しぶり。
「林はよかったぜ。
シュートとカーブは低めに落ちるし、直球のスピードもあった」巨人の3併殺は全部無死一塁から。
結局この併殺打が勝負の分かれ目となった。
二回遊ゴロで最初の併殺を食った森は、長島とシリーズの首位打者を争っているが、林については「攻めがうまかった」と、意外にこのシリーズでこれまでさえなかった野村の好リードをにおさせた。
「惜しかった」と五回の二直併殺打を嘆息したのは土井。
林の調子について質問すると、そのことはそっちのけで「あれが抜けていればどうなったかわかりませんよ」と無念さを押し殺せない表情だった。