元東映の皆川康夫投手を知ってますか? 1971年 もはや東映のエースである。八回、大橋のエラーで満塁とされ、マウンドはおりたが、少しもガックリしたところはない。ベンチ裏のイスに腰をおろすと「あのゴロで、チョイチョイと併殺になれば終わりだったんですよね」大きな目玉をギョロリとさせ、いたずらっぽく笑った。チーム6勝のうち、4勝の荒かせぎ。金田がいまひとつピリッとせず、高橋直、高橋善も期待どおりではない。火の車の投手陣だから、ちょっといいと、すぐにお声がかかるのもしようがない。チーム全試合の半分を越える13試合目の登板。この一週間になんと四試合もマウンドをふんでいる。「からだがなんとなくだるい。シャンとしないんですね」先発とリリーフの両刀使い。「前夜も一回投げているでしょう。これまでこんなに投げたことはなかったし、少し疲れが出てきているんですよ」大学(中大)時代は一日に何百球と投げてもビクともしなかったそうだが、さすがにこのところの登板は、タフな皆川にもこたえているようだ。土橋コーチもこのところは承知している。「ちゃんと休みをやろうと思っているんだが・・・。投手陣がなんとかそろうまで、皆川には気の毒だが、がんばってもらいたい」という。「きょうは三回もてばいいんじゃないですか」といっていたのは試合前。だが投げ進むごとに、少しずつ欲も出てきた。「あそこまでいけば完投したかったですよ。ひょっとしたら、一回のエラーがなければ完封できたかもしれないですよ」こわいもの知らずというか、新人らしくはっきりしているというのか、強気な言葉がポンポンとび出す。ドラフト五位で富士重工から入団。キャンプでは一位指名の、大学の後輩にあたる杉田がチヤホヤされるのを横目に「そりゃ面白くないですよ。でも・・・」と忠実にランニングやシャドー・ピッチングをやり、ひそかにチャンスのくるのをねらっていた。「新人王?まだまだそんなこと」両手でさえぎるようにしてベンチを出た。