元中日の大矢根博臣投手を知ってますか? 1960年 大矢根はナインの握手攻めにあいながらダッグアウトへ引きあげると、ベンチの一番すみでタバコを一服。巨人から一勝をあげた五月二十六日(後楽園)は脱兎?のようにとび込んできて「ああ、疲れた」ベンチにながながとあお向けにねそべってしまったのにくらべると格段の差。カメラマンに呼び出されて、ていねいにタバコをベンチに置いてグラウンドへ出た。「きょうはこの前(六月六日・中日)より調子は悪かった。とくにはじめは気負っちゃったが、バックが二点とったでしょう、ずっとらくになっちゃって・・・」どっしり前足をひろげてしゃべる口調はゆっくり。「ふしぎと巨人相手のときはファイトがわくね。きょうはシュート、落ちる球がよかった」強気を売り物の大矢根らしく言葉はあまり出てこない。「四回森が国松のホームランになる球をとってくれたでしょう。試合のヤマだった。国松にはあまり打たれていないから、外角へはずしてから落ちるやつで勝負しようと思ったんですが、ど真ん中へいっちゃった」-だれを一番マークした?の質問にも「王君ですね。二つも四球を与えちゃったでしょう。打たれてはいないんだけど、しぶとくくいついてきそうでなんとなくこわかった。長島君はなんとも・・・」かざる様子もみせず正直に告白した。「後半はずっとらくになった。三点でしょう」さもあたりまえのようにいってのけたあたりが大矢根らしいただ一つの言葉だった。中日は後楽園ノイローゼになっていた昨年にくらべると、ことしはうってかわったような活躍ぶりだが、その原因をこの大矢根がつくり出したようなもの。「巨人のときはどうも必ずといっていいほど調子がいいんですよ」といってテレくさそうな笑いでごまかしてしまった。杉下監督が報道陣を前をラバー・コートを小わきにかかえて振り向こうともせず小走りにダッグアウトを出ていくときは、もう吸い残したタバコのことは忘れているようだった。