匿名さん
元東映の山本久夫選手を知ってますか? 1961年 東映のスコアラー宮沢氏のメモをみると山本(久)の項にはこんなことが書いてある。
「対南海戦では下手投げの投手に注意すること。
高目、胸もとに浮き上がる球に弱い。
強いコースは低目」七回同点の左中間エンタイトル二塁打も宮沢氏のスコアブックには真ん中寄り低目のシュートとメモしてあった。
報道陣にとりかこまれた山本(久)は「シュートです。
真ん中の低目かな?」と宮沢スコアラーと相談でもしたような答えをした。
12球、2-3後の球を打つまで三塁コーチス・ボックスの水原監督の姿を目で追いつづけていた山本(久)。
「監督さんからてっきりバントのサインが出ると思っていたんですよ。
それがなんにも出ないんでしょう。
ちょっと気になってね」バントのうまいことでは東映一という定評があるだけに、すぐピンときたそうだ。
「ずいぶんねばったじゃない?」という質問に「ニガ手の胸もとにくる球ばかりで意識してファウルするような余裕はありませんよ。
無我夢中でしたよ」といった。
自分でも12球もねばったことが不思議そうな表情。
だがこれは山本(久)の報道陣用の返事らしい。
六日の対南海戦の試合前、山本(久)はナインとこんなことを話していた。
「ぼくは南海より西鉄の方が試合をしていてこわい感じがするな。
南海相手の試合には重圧を感じないもの」山本(久)の腹の中にある根性の強さをチラリとみせた言葉だ。
カメラマンの注文でもう一人のヒーロー武井と並んだ山本(久)のユニホームは真っ黒。
泥と汗がこびりついている。
「おととい(6日)からずっと午前十時開始の二軍練習に参加していたんですよ。
打てないうえにエラーをしては監督さんやナインに申しわけないですからね」ナイターつづきのこのごろ就寝は午前零時になるというのに二軍選手と午前十時にはグラウンドに出て練習する努力の人でもある。
「これくらいあたりまえですよ。
エラーをしてがっかりするより、どれだけいいかわからない」というあたりリーグ№1の失策数がだいぶ頭にきているようだ。
ベンチの上からのび上がったファンの「久さん、よかったね」という声に二、三歩帰りかけた山本(久)は「たまにはこんなこともあっていいでしょう」といってニッコリ笑った。