元太平洋の菊川昭二郎選手を知ってますか? 1973年 この日、稲尾監督は打線に手を入れた。ビュフォードを三塁にコンバートするなど、やりくりして東田を三番、福富を六番に置いた。太平洋にしてみれば基を負傷で欠いたとはいえ「最上級のオーダー」(関口コーチ)これで華々しく打ち勝つ計算だったろうが、皮肉にも打の主役になったのは下位の七番を打った菊川だった。復調になった江本にやや押され気味の太平洋。四回までわずかに1安打とサッパリ。そんなところで三塁側の歓声がドッと沸いたのが五回。二死後1-1から菊川の一打は左翼席にはずんでいた。「まさか」そんな表情で打球を見送った江本。「失投だ。ナメてかかっていたのがいけなかった。畜生ッ」南海の大黒柱に地団駄踏ませる菊川の一発だった。すがすがしい顔でベンチに引き揚げてきた菊川は「内角の速球でした。ねらったって?冗談じゃない。ワンヒットするつもりでした。でも最近ポイントが合っているのは確かです。いつもヒットコースに打球が飛んでいるからね。ウフフ」今季初ホーマーにやはりうれしさを隠せない。八回には左前打の福富を置いて、こんどは西岡から一、二塁間安打と巧打者ぶりを披露。「エンドランはサインどおり桜井が二塁カバーに入る気配だったので流し打った。しかも外角にスライダーがきたのでもっけの幸いで振った」とまくし立てながら目は左翼席のほうをジッと見ていた。ホーマーの味を確かめるようだった。「いい風だったネ。打った瞬間手首に感じたもんネ」打撃30傑とただ一人。ノー本塁打だった菊川は「これで何とか格好がついたナ」顔は笑いで照れっぱなしだった。