元ロッテの鈴木弘選手を知ってますか? 1972年 ロッテのジャンボ鈴木一塁手がイースタン・リーグで早くも2ホーマーをマークした。1㍍91、95㌔の巨体で振切られるボールは、ピンポン玉のようにとぶ。「ぼくの魅力は思い切ったスイング」という鈴木は、ファームのホームラン王をねらっている。坪内二軍監督は「まいった」といった表情で財布から四千六百円を出した。シーズン前、二人はこんな約束をかわした。「ジャンボ、ホームランを一本打てば、バット一本プレゼントしてあげる」開幕したばかりの対東映二試合であっという間に鈴木は2ホーマーをたたいてしまった。しかし、財布をあける坪内二軍監督の顔はうれしそうだった。「多少甘かったけれど、カーブを打ったんですからね」もし、ジャンボがふつうの野球センスを持っていれば、同二軍監督はこんな約束をしなかっただろう。直球だけなら一試合に何本でもスタンドにたたき込んでしまう。しかし、カーブにはメクラだった。弱点を知っている投手は、そう簡単に直球を投げてこないとみて、こんな約束をしたのだ。そのどうにもならなかったカーブにやっと手が出るようになった。「とにかく先が楽しみ。育てがいのある選手です」プロの野球生活の中で、ジャンボは成長の第一歩を目の前にみせた。二年前、大東文化大を卒業すると、そのからだに目をつけられてアメリカへ渡った。1Aのディケーター、ルーキー・リーグのグレート・ホースと、とてもプロ野球とは思えないチームを渡り歩き「二割そこそこの打率」しか残せず帰国した。その後、テスト生として拾われ、昨年のドラフト会議で名前があがったのは百六十九人中の百六十九番目。全く問題にされなかった男が、いまイースタンの話題をさらっている。坪内二軍監督は「どうして巨人が指名しなかったのだろう」と首をひねった。「ものになるか、まるでダメか、の両極端の選手だけれど、それだけ可能性を秘めた男を巨人が見のがす手はないと思う」相手ベンチから扇風機とヤジられる三振もする。ニックネーム通りの巨象のような、スローモーな一塁守備もする。だが、バットにボールが当たれば軽く場外へとんでいく。いまどきこんな荒削りな選手も珍しい。首脳陣は「柔軟体操、サーキットでからだを柔らかくしろ」とだけ指示を与えている。万一、育てばもうけものというのがいつわらざる首脳陣の気持ちだ。「ドラフトでぼくの上位にいた連中をゴボウ抜きします。ことしが勝負ですからね。イースタンのホームラン王は絶対とりますよ」こんなハリのある鈴木の声に、坪内二軍監督は思わずニンマリ。うまく育てば1ホーマー二千三百円の投資は安いものだ。