wikipedia
スーパーチャージャー
スーパーチャージャー()は本来、過給機全般を指すが、機械式過給機を指して「スーパーチャージャー」と呼び、排気タービン式過給機(ターボチャージャー)とは区別されるのが通例となっている。機械式過給器を特に区別する場合はメカニカル・スーパーチャージャーと言われる。
スーパーチャージャーは、エンジンの出力軸(クランクシャフト)からベルトなどを介して取り出した動力や電動モーターによって圧縮機(コンプレッサー)を駆動し、空気を圧縮してエンジンに供給する補機であり、圧縮機の種類により遠心式、ルーツ式、リショルム式などがある。ターボチャージャーと同様にオイルで潤滑されているが、スーパーチャージャーの場合、エンジンオイルではなく専用のスーパーチャージャーオイルで潤滑されており、エンジンオイルのメンテナンスが寿命に影響することはない。
排気の流れを動力源として利用するターボチャージャーと比較すると、排ガス浄化性能が高く、スロットル(アクセル)操作に対する反応や中低速での出力特性が優れている。一方、機械式スーパーチャージャーのうちエンジンの出力軸から動力を得ている場合、消費される出力はスーパーチャージャーの回転速度の2乗に比例するため高回転域の出力がターボチャージャーに比べ劣る。機械式スーパーチャージャーの欠点を補うため、動力源を電動モーターとしたスーパーチャージャーが小排気量の自動車向けとして開発され、量産化され始めている。しかしながら、定常運転の時間が長い航空機用や産業用のエンジンではターボチャージャーのほうが主流となっていて、スーパーチャージャーは一部の自動車用ガソリンエンジンに採用されているのみである。
航空機の技術が発展して大気密度の低い高高度を飛行するようになると、大気密度の低下によるレシプロエンジンの出力低下を補うために過給機が開発され、機械式のスーパーチャージャーが採用されていた時代があった。その後、第二次世界大戦直前にアメリカでターボチャージャーが実用化されてスーパーチャージャーの採用例は徐々に少なくなった。さらに戦後まもなくジェットエンジンが実用化されてレシプロエンジンを搭載する航空機は小型機に限られるようになり、過給機が搭載される場合もターボチャージャーが搭載される。航空機に用いられたスーパーチャージャーの例は第二次世界大戦までの軍用機に見られ、遠心式が多く採用された。
航空機に過給機を用いて地上1気圧下と同等の出力が得られる高度は臨界高度と呼ばれるが、臨界高度を高くするためには過給機の回転速度を速くするなどの方法で過給圧を高くする必要がある。しかし一方で、過給圧を高くすると機械損失(メカニカルロス)が大きくなり、低高度での出力に制限がかかる。このため航空機に採用されていたスーパーチャージャーは、高度によって回転速度を切り替えることができる機械式変速機や、流体継手を用いた無段階変速機を備えるようになった。複数のスーパーチャージャーを組み込み、一段目で圧縮された空気をさらに二段目で圧縮する二段過給と呼ばれる方式を採用した例や、スーパーチャージャーと排気タービン過給器を組み合わせた例も存在した。圧縮によって高温になった空気を冷やすために、水メタノール噴射装置を追加したり、一段目と二段目の間に中間冷却器(インタークーラー)を組み込むこと(英国ロールス・ロイス マーリンなど)も行われた。
自動車用の機械式スーパーチャージャーはコストを抑えやすいためルーツ式が主流である。イートン・コーポレーションでは四葉のものも開発・製造しており量産車への採用例もある。また、ルーツ式スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合せ、低回転域ではスーパーチャージャーが働き、高回転域ではターボチャージャーが働くツインチャージャーを採用する例もあった。レース用エンジンには二段過給式も採用された例がある。しかし、ルーツ式は過給圧を高めるほど効率は低くなり、騒音を生じやすいほか、装置が大きく重い欠点があることから、後付けで搭載されるアフターマーケット製品のスーパーチャージャーを中心に遠心式を採用する例もある。また、スーパーチャージャーが組み合わせられるエンジンはほとんどがガソリンであり、ディーゼルエンジンの場合、元々低速トルクが太く、さらにディーゼル車特有の高圧縮比との両立が難しく、2ストロークのユニフロー掃気ディーゼルエンジンを除き、日本車においてディーゼルエンジン車のスーパーチャージャー搭載例はない(プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャーの搭載車は存在する)。
1921年(大正10年)に、世界で初めてスーパーチャージャー付きエンジンを搭載した量販車「メルセデス6/25/40ps」と「メルセデス10/40/65ps」が、ベルリンモーターショーで公開されている。
過去において日本の自動車税の税額は車体寸法とエンジンの排気量により決定され、過給機の追加は課税に影響しなかったことから、小型乗用車の枠内に納めたシャシに排気量2,000 ccのエンジンと過給機を搭載して最高出力を争うように訴求力を高めていた。その場合においても、小排気量で高回転域の出力を重視する場合はターボチャージャーと比較するとメカニカルロス及び騒音が大きく、またコストパフォーマンスが悪いことから採用例が少なかった。一方、ターボチャージャーの欠点は技術が進歩すると共に解消され、スーパーチャージャーの採用例が増えることはなかった。最高出力を向上する目的で過給機の採用例が増えた日本の自動車業界であったが、自動車による環境負荷を低減することが注目されるようになると最高出力競争が下火になり、過給器を搭載する乗用車は一時的に少なくなった。2010年代から、小排気量のエンジンに過給機を搭載するダウンサイジングコンセプトが世界的に認知され始めたが、ターボチャージャーが主流であり、機械式スーパーチャージャーの採用は一部に留まっている。2019年(平成31年/令和元年)現在国内外で市販されている日本メーカーの乗用車でスーパーチャージャーを搭載しているのは、日産ノートとMAZDA3のみとなっている。
北米向け車種でスーパーチャージャーの採用例は多く、ジャガー、ランドローバー、メルセデス・ベンツなどの欧州各メーカーが、主に北米向けとしてスーパーチャージャー装備車をラインナップしている。また、アフターマーケット用にルーツブロアーやリショルムコンプレッサーが市販されており、ライトトラックの動力性能向上のためにも利用されている。北米日産が生産するピックアップトラックのフロンティアと、それをベースとした廉価SUVである、エクステラのハイパフォーマンスバージョンとして、V6、3.3Lガソリンエンジンにスーパーチャージャーを追加した、VG33ER型がある。
ヨーロッパではメルセデスベンツがルーツブロアーおよびリショルムコンプレッサーを使用している。直列4気筒にはルーツブロアーが組み合わされ、AMGモデルのV6、V8にはリショルムコンプレッサーが組み合わされる。リショルムコンプレッサーについては大排気量のV8エンジン63エンジンに置き換えられつつある。
オートバイ用エンジンでもプジョー・モトシクルから、スーパーチャージャー搭載のスクーターであるが、2005年から数年間販売されていた。
スーパーチャージャーのニュース一覧