大宰大弐高遠1)の、ものへおはしける道に、女房車をやりて過ける牛飼童部、のろひごとをしけるを聞きて、かの車をとどめて、尋ね聞きければ、ある殿上人の車を、女房たちの借りて、物詣でせられ けるが、約束のほど過ぎて、道の遠くなるを、腹立つなりけり。
大弐、言はれけるは、「女房に車貸すほどの人なれば、主は、よも、さやうの情けなきことは思はれじ。
おのれか不当にこそ」とて、牛飼を走らせて、主のもとへやりけり。
さて、わが牛飼に、「この女房の車を、いづくまでも、仰せられんにしたがひて、つかふまつれ」と下知せられける。
すき人はかくこそあらめと、いみじくこそ思ゆれ。
この人、はかなくなられてのち、ある人の夢に、 ふるさとへ行く人もがな告げやらん知らぬ山路に一人迷ふと ながめて居給へると、見えけり。
いかなるところに生れたりけるにか、あはれにおぼつかなし。
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